従業員が不祥事を起こした場合のリスクと対処方法【元弁護士が解説#4】

企業にとって「従業員の不祥事」は重大なリスクとなります。

自社のお金や商品を横領されたら大きな不利益が発生するでしょう。刑事事件を起こして大々的に報道されると、自社への信用が失墜してしまいます。

日頃から不祥事が発生しにくいようなリスク管理を行う必要がありますし、万一発生した場合に素早く対応できる体制作りも欠かせません。

今回は従業員が不祥事を起こした場合に考えられるリスクや予防方法、対処方法をご紹介します。事業経営者の方は、ぜひ参考にしてください。

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よくある不祥事のパターン

従業員が起こす不祥事としては、以下のようなパターンがよくあります。

会社のお金や商品を横領

経理担当の従業員が会社のお金を横領して自分のために使ったり、営業担当の従業員が商品を横流しして利益を得たりするケースです。金額が大きくなったり有名企業だったりすると、新聞などで報道される事例も少なくありません。

社外で刑事事件を起こす

従業員が通勤電車で痴漢行為をしたり、出会い系サイトで未成年を相手に援助交際をしたり、暴行事件、交通事故を起こしたりするケースです。上場会社の社員がこうした事件や事故を起こすと、マスコミ報道されるケースも多々あります。

ずさんな対応、虚偽報告

商品の品質管理がずさんだったために顧客に健康被害を与えてしまう場合、検査基準を満たしていないのに虚偽の報告の報告をして基準を満たしたことにして製品を販売してしまうケースなどです。

顧客に被害をもたらしたら、企業が損害賠償をしなければなりません。

情報漏えい

従業員が故意や過失で情報漏えいしてしまうケースもよくあります。情報はいったん漏えいすると取り戻しが不可能ですし、会社への信用は地に落ちてしまうでしょう。

不祥事によって想定されるリスク

従業員が不祥事を起こすと、雇用している企業には以下のような大きなリスクが発生します。

経済的な損失

従業員や会社の資金や商品を横領すると、経済的な損失が発生します。横領事件では10年以上にわたって数千万円や億単位のお金を横領される事例も多いので「一個人の横領額などしれている」などと軽く考えるべきではありません。

会社が損害賠償請求を受ける

従業員の過失によって顧客に健康被害をもたらしたら、会社が顧客へ損害賠償をしなければなりません。情報漏えいしたら、1人1人へ慰謝料を支払う必要があります。多数の顧客に被害が発生すると、賠償金額も莫大となるでしょう。

信用が失墜する

従業員が不祥事を起こし、マスコミなどで大々的に報道されると企業への信用が失墜します。特に今は個人のSNSなどによる拡散力が強いので、すぐに全国へ知れ渡ってしまうでしょう。商品やサービスが売れなくなったり株価が低下したりして、重大な損害が発生します。

従業員の離職、生産性の低下

勤務先の企業で不祥事が発生すると、従業員のモチベーションも低下するものです。離職者も発生するでしょうし、新卒採用も困難となるでしょう。

結果として企業全体の生産性、競争力が低下してしまう要因となります。

企業風土の荒廃

従業員による不祥事が続くと、だんだんと「不祥事が起こって当たり前」「違法なことが平然と行われる」企業風土が培われていきます。労基署による立入検査を受けたり警察沙汰になったりする機会も増え、競争力も大きく低下して、最終的には「倒産」のおそれも発生するでしょう。

従業員による不祥事が発生すると、企業には多大な損失やリスクが発生します。必ず予防策を講じ、実際に発生してしまった場合にすぐに解決するための対策を検討しておきましょう。

不祥事の予防方法

従業員による不祥事を予防するには、以下のような方法が有効です。

日頃から「不祥事を許さない」姿勢を明確にする

まずは代表者や経営陣が従業員たちに対し、日頃から不祥事を起こさないよう、折に触れて啓蒙することが大切です。たとえば社内報や朝礼で横領や社外の刑事事件などの事例を紹介したり、どのようなことに注意すれば良いか説明したりしましょう。高いリスクが発生すると分からせれば従業員も自然と「悪いことはしてはならない」と意識するようになるものです。

社内全体で「不祥事を起こさない」マインドを共有していきましょう。

重要事項は複数の人員に担当させる

経理や商品・製品の品質検査などの重要事項については、複数の人員に担当させましょう。1人ではずさんになってしまいがちですが、複数が関与していると適当になりにくいものです。また同じ人にずっと担当させるのではなく、定期的に担当者を入れ替えて不正が定着しないようにする方法も効果的です。

作業者と確認者を分ける

商品や製品の検査業務などのプロセスにおいて、実際の作業者と確認者、決裁者を分けましょう。作業者が適当な仕事をしていても、確認者が別にいれば不祥事に気づくことができます。1人に権限を集中させると危険が高まるので、分散させましょう。

風通しを良くする

企業内の風通しを良くして、誰でも意見を言いやすく報告しやすくするのも重要です。

そのためには、専門の相談・報告のための窓口を用意しておくのが良いでしょう。

利用しやすい窓口があれば、ある従業員が他の従業員による不祥事を発見したときにすぐに相談や報告ができます。経営陣は問題が小さいうちに気づけて対応を取れるので、トラブルが大きくなる前に解決しやすくなるでしょう。

起訴休職制度を作っておく

従業員が痴漢などの刑事事件を起こしても、すぐに解雇できるわけではありません。基本的に「有罪判決」がでるまでは無罪を推定されるので、在籍させる必要があります。

問題は、従業員が裁判中などに「出勤したい」と言ってきた場合です。自宅待機を命じる対応も可能ですが、その間も給料が発生します。

そのような事態に備えて、社内に「起訴休職制度」を用意しましょう。起訴休職制度とは、刑事事件で起訴されたら休職を命じられる制度であり、その間の賃金をカットも可能です。

事前に策定しておかないと全額の給料を支給しなければならない可能性があるので、もしも今制度がないなら、就業規則に加えておきましょう。

対応マニュアルを策定する

不祥事に備えるには、事前に「対応マニュアル」を作っておくべきです。

  • 誰が対応するのか
  • 窓口をどこに置くのか
  • いつの時点で世間に公表するのか
  • マスコミ対応はどのように行うのか
  • 従業員にはどのように説明するのか

上記のようなことを取り決めておけば、いざトラブルが発生したときにスムーズに対応できるでしょう。

トラブルが発生したときの対処方法

実際にトラブルが発生してしまったら、以下のように対応を進めましょう。

初動をスピーディに対応する

従業員によるトラブルが発生したら、事情聴取や原因究明などの対応が必要です。

このとき、対応が遅れると失うものが大きくなるので、なるべく早急に着手しましょう。

自社で対応する前に世間に不祥事が公表されると「隠蔽しようとしていた」などと言われる可能性もあります。

不祥事の発生後すぐに対応するには、担当者や担当部署を事前に定めておきましょう。またトラブルの類型によっても調査方法や適切な担当者が異なってきます。発生した不祥事の内容に応じて状況の確認や関係者からの事情聴取、原因究明等を進めてきましょう。

窓口を1つにまとめる

不祥事が世間に知られると、被害者やマスコミなどへの外部対応が必要です。このとき、専門の窓口がないとクレームや嫌がらせ、問合せが各所へ殺到して収集がつかなくなるでしょう。

必ず専門の窓口を作り、対応を一本化すべきです。担当者を中心に速やかに対策本部を設置しましょう。

プライバシーに配慮した聞き取り

不祥事が発生すると、関係者からの事情聴取が必要となるケースが多数です。その際、プライバシーには充分に配慮しましょう。たとえば「横領」と思われるケースでも、実際に横領が行われたか確実でない段階で社内に広まってしまったら本人が重大な不利益を受けます。

関係者から聞き取り調査を行うときも、調査に協力したことによって不利益を受けてしまうようなら誰も協力しません。

調査が終了して問題の全貌が明らかになるまでは、すべての関係者のプライバシーを守り、社内にも知られないための体制を整えましょう。

関係者同士の口裏合わせを封じる

粉飾決算などの悪質な不正の場合、関係者同士で口裏合わせをしてごまかそうとするケースが少なくありません。不祥事が疑われる場合、関係者同士が連絡を取り合えないような対応策が要求されます。コミュニケーションの手段を断ち、休職命令を出すなどしましょう。

タイミングを見て公開する

不祥事の内容によっては世間に公開すべきものがあります。

たとえば商品によって健康被害が発生した場合、製品が検査基準を満たしていなかったためにリコールしなければならないケースなどでは、早急に顧客に危険を知らせて購買や使用を止めなければなりません。粉飾決算があったケースでも、発表前に内部告発によって外部に発覚すると、「隠蔽工作がはかられた」などといわれるリスクが発生します。

公表を要するトラブルについては、速やかに発表しましょう。その際、マスコミ対応なども必要になるので、事前に定めておいた担当者が手順とおりに対応することが大切です。

損害の拡大防止

顧客に被害をもたらす問題が発覚したら、それ以上の損害拡大を防止しなければなりません。自社ホームページなどで早急に世間に公表し、商品や製品回収などの対応を進めましょう。

懲戒などの対応

従業員が不祥事を起こし、調査の結果責任があることが明らかになったら懲戒処分を検討すべきです。

最も重い処分は解雇ですが、軽い不祥事であれば解雇が重すぎる場合も想定されます。行為に釣り合わない懲戒処分をすると「無効」と主張されてトラブルになる可能性もあるので、注意しましょう。

戒告、減給、出勤停止、降格、解雇など就業規則に策定された処分のうちから不祥事の内容に見合った対応を選択してください。

再発防止策

不祥事が発生したら、再発防止策も必要です。明らかになった事情をもとに原因を除去し、二度と同じようなトラブルが起こらないような体制作りを整えましょう。

まとめ

企業にとって不祥事対応は極めて重要です。困ったときには弁護士などの専門家のサポートも受けながら「不祥事を起こさない、拡大させない」体制作りを整えていきましょう。

執筆者プロフィール

福谷陽子
法律ライター 元弁護士
弁護士としての経験は約10年。その経験をもとに、ライターへ転身後は法律や不動産関係の記事を積極的に執筆している。
弁護士時代は中小企業の顧問業、離婚や不倫など男女関係案件の取扱いが多く、浮気調査や探偵事務所の実情にも詳しい。
記事の作成だけではなく、編集やサイト設計、ディレクションやウェブコンテンツを利用したマーケティングのアドバイスなど、活動の幅を広げている。

運営サイト(元弁護士・法律ライター福谷陽子のblog)
https://legalharuka.com/433

運営youtubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UC-vYz7An9GHWXsXjWKbmRdw

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探偵社PIO編集部監修

本記事は探偵社PIOの編集部が企画・編集・監修を行いました。

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