社内不倫をした社員を解雇できる?解雇事例と社内対応のポイント【現役弁護士が解説】
社員同士の不倫が発覚した場合、会社としてはその社員を解雇したいと考えることがあるかもしれません。
不倫自体をよく思わない人はまだまだ世の中に多いため、取引先などに社内不倫が知られると会社のイメージダウンにつながることもあるでしょう。また、社内不倫をした社員の夫や妻が会社に乗り込んでくるなど、会社の業務に支障が生じるケースもあります。
そこで、社内で不倫をしている社員がいる場合に、解雇などの処分を行うことが可能であるか具体的な事例とあわせて解説します。
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目次
社内不倫を理由に解雇することが可能か?
結論から言うと、会社内で社員同士が不倫をしていたとしても当然に解雇できるわけではありません。むしろ、解雇ができないケースが多いことは理解しておく必要があります。
就業規則による解雇は難しい
社内不倫に限らず、社員のトラブルを理由に解雇する場合には就業規則に基づく懲戒処分としての解雇となります。具体的には、「懲戒解雇」や「諭旨解雇」と呼ばれるものです。しかし、解雇は社員の生活基盤を失わせるものであり、処分を受ける社員に重大な影響をもたらします。
したがって、解雇を検討する際には慎重な判断が求められます。実際に就業規則の文言上は懲戒事由があると思える場合であっても、裁判所により解雇が無効とされる事例もあります。
セクハラとの区別に注意
社内不倫が発覚した場合には、不倫をした二人のいずれかから「相手からのセクハラだった」と主張されることがあります。特に、不倫をした当事者が上司と部下である場合には注意が必要です。一見合意の上であったとしても、上司が力関係を利用して強引に不倫に持ち込んでいる可能性もゼロではないためです。
セクハラにあたる事例であるにもかかわらず会社が被害者を解雇すると、後から解雇無効を争われ、会社としては給与相当額の損害賠償や慰謝料を支払わざるを得ないことがあります。また、問題が公になれば会社のイメージダウンにも繋がるリスクももちろんあります。
社内不倫で解雇ができるケース
以上みてきたように、社内不倫により解雇をすることは難しいのが実情です。もっとも、数は少ないですが、社内不倫を理由とする解雇が有効とされた裁判例も存在しています。
解雇が有効とされた裁判例(東京高判昭和40年7月31日)
社内不倫による解雇の有効性が裁判で争われた事例のうち、解雇が有効であるとされたケースは次のような事案でした。
勤務歴の長いバスの男性運転士(既婚者)が勤務歴の少なく年若い女性車掌と情交関係を結び、女性車掌が妊娠・中絶手術をしたことで不倫関係が発覚した。その後、女性車掌は会社を退職した。会社は、男性運転士を懲戒解雇とした。 |
このケースにおいて裁判所は、会社による男性運転士の解雇を有効と判断しました。裁判所が解雇を有効と判断した理由をまとめると以下のとおりです。
・妻子があり分別のある年齢の男性社員が、同じ職場に勤務する未成年の女性車掌と長期間にわたり不倫関係を結び、女性社員を妊娠・中絶させ退職に追い込んだ行為は、従業員の間の著しく風紀を乱し、職場の秩序を破るものである
・不倫が原因で現実に不倫相手となった女性車掌の退職、他の女性従業員の不安や動揺、求人についての悪影響といった事態を招いた
・バス事業を運営する会社の社会的地位、名誉、信用等を傷つけ、多かれ少なかれ会社の業務の正常な運営を阻害することで、会社に損害を与えた
社内不倫による解雇が認められる要素
上で取り上げた裁判例において、裁判所は次のような事実関係に着目しています。
- 解雇された男性運転士と女性車掌の間には職場内の力関係や年齢に大きな差があり、男性社員が女性社員に強い影響力を持っていた
- 女性車掌は男性運転士と二人きりの勤務であり宿泊を伴うこともあったため会社としても日頃から風紀の乱れを防止しようとしていた
- 不倫関係は男性運転士の誘いにより始まった
- 不倫相手の女性車掌は不倫により妊娠・中絶をした
- 不倫相手の女性車掌は退職を余儀なくされた
- 男性運転士と勤務する他の女性車掌に強い不安感を感じさせた
- 社内不倫の発覚により求人に支障を及ぼす状況となった
この事実関係からすると、裁判例のケースは強い影響力を持つ男性上司が女性社員との性的関係を持ったというものであり、対等な関係で自由な恋愛として不倫をした事案とは異なることがわかります。また、そうであるからこそ不倫相手であった女性車掌と同様に男性運転士と二人きりでの勤務を求められる他の女性車掌も不安を感じ、求人にも影響が出たものと考えられます。
なお、この事件が起きたのは昭和39年であり、現代とは会社内における男性と女性の立場が大きく異なっていました。男性は会社に長く勤務するのに対し、女性は結婚までの数年間だけ勤務する時代だったことは判決の中でも触れられています。
男女雇用機会均等法の施行以前であり、会社内での男女の地位はそもそも平等ではなかったことが背景にあります。加えて、この時代の女性の貞操観念に対する考え方も現代とは異なることにも留意しておく必要があります。つまり、それだけ会社として女性社員を守るべき要請が強かったといえます。
このため、社内不倫による解雇が有効と認められた裁判例があるからといって、類似の事案なら解雇が許されると簡単に考えると判断を誤る可能性があります。あくまでも、個別の事案ごとに解雇の必要性や相当性が認められるかを判断するべきです。その際の判断基準としては、以下の2点が参考になります。
- 社内不倫により職場の風紀・秩序が乱されたか
- 正常な企業運営を阻害し、企業に損害を与えたか
例えば、就業時間中に会社内で不倫相手と性的関係を持っていたとか、不倫相手を職場で有利に扱ったため他の社員に迷惑がかかったなどの事情があれば解雇が認められる可能性は出てきます。
ただ、そのようなケースであっても、次に説明するように解雇を検討する際には本人からの聞き取りなど社内調査を十分に尽くしたうえで慎重に手続を進めることが大切です。
会社で社内不倫が発覚した場合の対処方法
最終的に解雇をするかはともかく、社内不倫が発覚すると社員の間で噂が広がるため、会社としては少なくとも本人からの聞き取りなどの調査をせざるを得ないことが通常です。そこで、実際に社内不倫があった場合の会社の対処方法を具体的に説明します。
事実関係の聞き取り
社内不倫が発覚する経緯としては、以下のようなものがあります。
- 同僚による目撃情報などにより社員の間で噂が広がる
- 不倫をした社員の夫や妻が会社に通報する
不倫とはいえ誰と付き合うかは社員の私生活に関することであるため、必ずしも会社が対応しなければならないというわけではありません。
しかし、会社に不倫をした社員の夫や妻から連絡が来るとか、他の社員の間に動揺が広がっているなど社内の秩序が乱れている様子がみられる場合には、会社としてはまず当事者に事実関係の聞き取りをする必要があります。
もっとも、社内不倫に対しては他の社員から好奇の目で見られがちであるため、会社が本人から聞き取りをする際も、呼び出しをしたことが周囲にわからないように注意した方がよいでしょう。
例えば、社内の共有カレンダーに当事者である社員との面談予定を書き込まないことや、上司と当事者が一緒に面談のため席を立つのではなく、会議室で待ち合わせをして別々に入室するなどの工夫も必要となることがあります。
これに加えて、会社が当事者に聞き取りをした内容などが他の社員に漏洩した場合には、会社側が社内不倫をした社員から損害賠償請求を受けるリスクもあるため、情報の取り扱いには細心の注意を払うことが重要です。
社内不倫をした社員への処分
聞き取りによって社内不倫の事実が明らかとなった場合、会社がとり得る対応は大きくわけて次の3つがあります。3つの対応方針ごとに、その後の手続の流れを解説します。
- 解雇する
- 配置転換をする
- 処分をしない
社内不倫で解雇する場合
繰り返し説明している通り、社内不倫を理由として解雇をする際には慎重な判断が必要です。もっとも、悪質な不倫事案に関しては懲戒解雇が認められる可能性はゼロではありません。
ただし、解雇した社員から解雇の有効性を争われるリスクがあることを想定した上で、それでも解雇するしか方法はないのか、次に説明する配置転換など他の手段による対処ができないのかといったことを念入りに検討するべきです。
また、後で裁判などになった場合の証拠とするために、社内での検討過程は必ず書面化して残しておくようにしましょう。
社内の検討過程では弁護士や社会保険労務士など外部の専門家の意見を聞くことも重要です。外部の第三者から意見を聞いたことは、会社による恣意的な処分ではないことを裏付ける一つの要素となり得るためです。
このように、社内不倫を理由として解雇をするためには会社として周到な準備が必要です。したがって、会社として社内不倫をした社員を退職させたいという場合には、懲戒処分として解雇をするのではなく、できるだけ不倫をした社員本人による自主退職を目指した方がよいでしょう。
社員に自主退職を促す場合には、上司や人事担当者から「不倫の事実が社内に広まったことで、不倫をした社員自身も働きにくい環境となっていること」や、「不倫によって他の社員の間にも動揺が広がっていること」などを丁寧に説明し、退職という選択肢もあることを示すことになります。
ただし、本人に自主退職の意思が全くない場合に退職を強要することは、後から不当解雇として争われるリスクがあるため、おすすめできません。会社としてできることは社員本人に対して選択肢の一つとして退職を示したうえで、最終的には本人の選択に委ねることです。
社内不倫で配置転換する場合
会社の規模がある程度大きい場合によく用いられる手段が配置転換です。社内不倫をした二人が同じ場所で勤務を続けることは、不倫を知られた当事者にとっても精神的な負担を伴います。このため、不倫をした社員を別々の部署や営業所などに異動させることは会社にとっても、不倫をした社員にとっても良い解決策となることが多いでしょう。
配置転換は、労働契約等で地域限定などの制限が付されていない限りは、社員から個別の同意を得なくても会社の意向によって行うことができます。したがって、解雇と比べると法的なハードルは格段に低いということができます。
ただし、配置転換によって退職に追い込む意図があるような場合には、会社側の権利濫用として許されないことがあるため注意が必要です。極端な例ではありますが、実家のサポートを受けながら生活しているシングルマザーの女性社員を、実家から遠く離れた地域に転勤させるというように、その社員が退職を余儀なくされるような配置転換は違法となる可能性があります。
したがって、社内不倫により配置転換をする際には、あくまでも通常行われる配置転換と同様に行うことが重要です。
社内不倫をした社員に処分をしない場合
実際には社内不倫が発覚しても、会社として不倫をした社員に対して解雇や配置転換などの具体的な対応をしないこともよくあります。既に説明しているように不倫をした社員を解雇することは難しく、また企業規模があまり大きくない場合には適切な配置転換先がないことがあるためです。
そもそも、社内不倫があったとしても業務に具体的な影響がない限りは当人同士のプライベートに関する問題です。このため、現実に他の社員や取引先から苦情が入っているなどの事情がなければ、当事者には事情聴取や口頭での注意だけして済ますことも一つの選択肢といえるでしょう。
まとめ
社内不倫が発覚した場合、会社としては慎重な対応が求められることは間違いありません。不倫をした社員を解雇するなどの処分をすることは難しいものの、社内で不倫の噂が立っているようなケースでは他の社員への影響も考える必要があるためです。
他方で、社員同士とはいえ不倫は私生活に関する事柄なので、必ずしも会社が積極的に介入しない方がよいこともあります。このあたりは、会社の社風や地域性などによってもどのように対応すべきかの判断は異なることになります。社内の様子や社内不倫による他の社員や取引先への影響を見極めつつ、当事者や周囲へのヒアリング等の調査により正確な事実関係を把握することが重要となります。
執筆者プロフィール
弁護士 松浦 絢子
松浦綜合法律事務所代表。
京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。宅地建物取引士。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、男女問題など幅広い相談に対応している。
運営サイト:松浦綜合法律事務所公式サイト
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探偵社PIO編集部監修
本記事は探偵社PIOの編集部が企画・編集・監修を行いました。