労災事故が発生した場合の対処方法【元弁護士が解説#8】

企業内で労災事故が発生したら、経営陣には適切な対応を要求されます。間違った対応をすると企業側の責任を問われる可能性もあるので、正しい対処方法を知っておきましょう。

今回は労災事故が発生したときの対処方法、手順をわかりやすくご紹介します。従業員を雇っている限り労災事故を100%避けることはできないので、ぜひ参考にしてみてください。

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そもそも「労災事故」とは何か?

そもそも「労災事故」とはどういったケースをいうのでしょうか?

労災事故とは

「労災事故」とは、「労働災害」によって発生した事故を意味します。

労働災害とは、業務や通勤退勤中の事故に起因する病気や傷害、死亡などのことです。

労働災害には以下の2種類があります。

  • 業務災害

業務に起因して労働者が病気、けがをしたり障害を負ったり死亡したりしてしまうことです。

  • 通勤災害

通勤退勤途中に労働者が病気、けがをしたり障害を負ったり死亡したりしてしまうことです。

労災事故の典型例

  • 工場で爆発が起こり、従業員がケガをした
  • 高所で作業していた従業員が転落してケガをした
  • 近くのものが倒れてきて従業員がケガをした
  • 仕事中、有害物質に接触した従業員が病気になった
  • 通勤退勤途中に従業員が交通事故に遭った

社内で労災事故が発生したら、会社は法律で求められる正しい対応をしなければなりません。

以下で手順をみていきましょう。

労災事故が起こったときの対応手順

労災事故が発生したら、以下のように対応を進めてください。

被災者の救護、医療機関への搬送

まずは被災者の救護が必要です。重傷であれば応急処置を行い、救急車を呼んで医療機関へ搬送しましょう。

軽傷で救急車が不要な場合には、すぐに病院に行くように本人へ指示してください。

また病院選びも重要です。

できれば「労災指定病院」で治療を受けるようお勧めします。ただし難しい場合には一般の病院でもかまいません。

労災指定病院と一般の病院の違い

労災指定病院で治療を受ける場合、労災保険から直接治療費が支払われるので被災者が窓口で料金を払う必要がありません。

一般の病院で治療を受ける場合には、被災者が窓口でいったん治療費を立て替え、その後労災保険で清算する必要があります。被災者にとって労災病院の方が便利なので、できれば労災病院を選んだ方が良いのです。

労災が発生したとき、適切な治療を受けさせなければ企業側に大きな責任が発生してしまう可能性があります。「労災隠し」すると大きなトラブルになるので、絶対にやってはいけません。

労災事故で治療を受けさせるときの注意点

労災事故のけがや病気の治療を受けるとき、治療費の支払い方法について注意点があります。それは「健康保険を利用してはいけない」ことです。

労災の場合、「労災保険」から全額の治療費が支払われるので、健康保険を使う必要はありません。労災保険を使わずに健康保険を適用すると、「労災隠し」とみなされて企業が処罰される可能性もあります。

労災発生後、従業員が治療を受けるときには、必ず病院に「労災事故なので、労災保険から支払をします」と伝えさせましょう。

警察、労働基準監督署への報告

労災事故が大規模であれば、警察への通報も必要となります。労働基準監督署へも報告して、その後の対処方法についての指示を受けましょう。

労災保険の申請

労災が発生したら、「労災保険」から被災者へ治療費や休業補償などの給付金が給付されます。ただし給付金を受け取るには、労災保険へ申請をしなければなりません。

請求書は被災者が作成するものですが、企業側が記載する欄もあります。また被災者自身はけがをして申請手続を進められないケースも多いので、雇用主側が積極的にサポートしましょう。

労災保険の申請方法は、「労災指定病院」か「それ以外の一般の病院」かで異なります。

労災指定病院の場合

労災指定病院で治療を受ける場合、労基署へ「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」を提出しましょう。薬をもらうために薬局を利用する場合、病院とは別に薬局についても請求書の提出が必要となります。

第5号の請求書を提出すれば、以後労災指定病院で治療を受けるときの治療費は全額労災保険が負担してくれるので、本人は窓口で支払う必要がありません。

一般の病院の場合

労災指定病院以外で治療を受ける場合、労災保険は病院へ費用を直接払いしてくれません。いったんは、被災者が自分で病院の窓口において「全額の治療費」を負担する必要があります。その後、診療報酬明細書を添付して労基署へ「療養補償給付たる費用請求書(様式第7号)」を提出すれば、支払った金額を返してもらえる仕組みです。

被災者にとっては一般の病院より労災指定病院の方が便利といえるでしょう。

労働者死傷病報告書の提出

労災事故が発生し、ケガによる休業期間が4日以上になる場合には労基署へ「労働者死傷病報告書(様式24号)」を提出しなければなりません。報告書を提出しなかった場合「労災隠し」とみなされるおそれがあります。「労働安全衛生法違反」となり、50万円以下の罰金刑を課される可能性が高くなるので、必ず報告しましょう。

休業期間が1~3日だった場合には、「23号様式」を使って四半期ごとにまとめて提出すれば足ります。

被災者が軽傷で休業しない場合には、報告書の提出義務は課されません。

通勤災害の場合

通勤災害の場合には、労災保険の給付申請方法が異なります。治療費請求の際には「通勤災害用」書式を利用しましょう。

労災指定病院で治療を受けるときには「様式第16号の3」、それ以外の一般の病院で治療を受けるときには「様式第16号の5」を使います。請求書書式はこちらからダウンロードできます。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousaihoken06/index.html

また通勤災害の場合には「労働者死傷病報告書」の提出は不要です。

休業3日目までの補償

労災事故によって労働者が休業する場合、労災保険から「休業補償金」が支払われます。ただこの給付は「休業4日目から」の分しか支払われないので、1~3日目までの分は企業が負担しなければなりません。休業中の補償金は「通常時の賃金の6割の金額」となります。

当該労働者の普段の月給を基準に3日分の6割の金額を計算し、休業補償金として支給しましょう。

原因究明のための調査

労災事故が発生したら、原因究明のために調査をしなければなりません。事故の原因が会社による管理不行き届きや配慮不足にあるケースも多いからです。労災事故の発生原因が自社にあるなら、企業側が労働者へ損害賠償金を支払わねばならない可能性もあります。

また再発防止策を策定するにも、原因究明が必要となるでしょう。

  • 本人や関係者からの聞き取り
  • 現場検証
  • 周囲の状況確認
  • 実際に行われていた作業手順の確認

上記のような調査を重ねて「なぜ事故が起こったのか」を明らかにしましょう。

調査結果については、調査報告書を作成するようお勧めします。

再発防止策の策定

事故の原因が明らかになったら、同様の事故が起こらないための再発防止策を策定すべきです。放置しておくと、再度同じ事故が起こったときに企業側の責任を問われるリスクが高くなるので、必ず対応しましょう。

たとえば以下のような方策が有効と考えられます。

  • 安全装置をつける
  • 危険業務には複数人で対応する
  • 業務対応マニュアルを策定する
  • 経験の少ない人材に危険業務を担当させない

損害賠償

労災事故の中には、企業側が被災者へ損害賠償金を払わねばならないケースもあります。雇用主は従業員に対し、「安全配慮義務」を負うからです。

安全配慮義務とは、労働者がはたらくときに雇用主がその安全に配慮しなければならない義務をいいます。危険な状況を放置して従業員がけがをすると、雇用主が「安全配慮義務違反」となり、慰謝料や逸失利益などの賠償金を払わねばなりません。

労災保険からも被災者へ休業補償などの給付が行われますが、全額の補償は行われないので不足分の支払が必要ですし、慰謝料は給付金に含まれないので企業側が全額負担する必要があります。

責任が発生しているのに支払をしないと、労働者側から労働審判や裁判を起こされるリスクも発生します。原因究明の調査結果に応じて被災者と話し合い、円満な解決を目指しましょう。

労災隠しのリスク

労災が発生したとき、労災を隠そうとする企業が少なくありません。労災保険を適用すると保険料が増額される可能性があるうえ「労災が発生した」事実を知られると世間における評判低下も懸念されるからです。労災がきっかけとなって違法な長時間労働が発覚するケースも多々あります。

しかし労災隠しは犯罪です。労働者が通報すればすぐに発覚してしまうでしょう。送検されて刑事罰を適用されますし、世間における評判もかえって大きく低下します。売上げ低下、従業員の離脱などの問題が発生するので、絶対にしてはいけません。

労災が発生したら法律に則って正しく報告や補償を行い、誠実に対応することが何より重要です。

労災事故の予防策

普段から労災事故が起こらないように、以下のように予防策を策定しましょう。

マニュアル作り

危険を伴う業務については、必ずマニュアルを作るようお勧めします。手順が明確化されていないために労働者が個々の判断でずさんな作業を行い、事故につながる例が多いからです。

複数人で対応、指示系統の確立

危険な業務については、必ず複数人で対応しましょう。1人では注意力に限界があります。

また指示系統を確立し、現場の作業員が独断で危険な行動をとれないようにしましょう。

従業員への注意喚起

危険業務に携わる従業員には、事前に注意喚起しておく必要があります。従業員自身が危険を認識できていなければ、注意を払うのは不可能だからです。

また、万一事故に遭ったらすぐ報告するよう伝えましょう。軽い事故の場合、現場の従業員が「面倒なので報告しないでおこう」と考えたり、上司が責任追及をおそれて部下へ「会社へ言わないように」などとクギを刺したりするケースがみられます。

普段から「労災事故は必ず明らかにする」企業風土を作っておくことが、労災予防や適切な対応へとつながっていくでしょう。

まとめ

人が増えてくると、労災事故を完璧に防ぐのは困難です。日頃から予防策をめぐらし、万一事故が起こったら法律に従って正しく対応していきましょう。

万一労災事故が発生しても、くれぐれも労災隠しはしないよう注意してください。困ったときには手続き関係については社労士、法律問題については弁護士に相談すれば適切に対応できるでしょう。

執筆者プロフィール

福谷陽子
法律ライター 元弁護士
弁護士としての経験は約10年。その経験をもとに、ライターへ転身後は法律や不動産関係の記事を積極的に執筆している。
弁護士時代は中小企業の顧問業、離婚や不倫など男女関係案件の取扱いが多く、浮気調査や探偵事務所の実情にも詳しい。
記事の作成だけではなく、編集やサイト設計、ディレクションやウェブコンテンツを利用したマーケティングのアドバイスなど、活動の幅を広げている。

運営サイト(元弁護士・法律ライター福谷陽子のblog)
https://legalharuka.com/433

運営youtubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UC-vYz7An9GHWXsXjWKbmRdw

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本記事は探偵社PIOの編集部が企画・編集・監修を行いました。

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