リストラが認められる要件と手順【元弁護士が解説#17】
会社の経営環境が悪化してきたら「リストラ」を視野に入れて検討しなければならない状況が訪れます。しかし法律上、リストラは簡単には認められないので、慎重に進めなければなりません。
今回はリストラが認められるための要件や、適切にリストラを進めるための手順をご紹介します。
リストラを検討している経営者の方は、参考にしてみてください。
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目次
リストラとは
リストラとは、経営状況の悪化した企業が再建をかけて行う「再構築」にむけた対応を意味します。
経費削減や不採算部門の売却などもリストラの一環ですが、日本で「リストラ」という場合には「整理解雇」と意味するケースが多数となっています。
整理解雇とは、企業が生き残るために従業員を解雇すること。
いくつか種類のある解雇の中でも、これ以上従業員の雇用を維持できないので、倒産を防ぐためにやむなく解雇する場合を「整理解雇」といいます。
リストラ(整理解雇)の場合、1種の緊急時といえるので通常時の「普通解雇」とは少し異なる要件が適用されます。
違法なリストラをしてしまうリスク
適法にリストラを行うには、法律の定める要件を満たさねばなりません。
法律を守らないで「違法なリストラ」を行うと、以下のようなリスクが発生するので注意しましょう。
従業員から訴えられる
リストラが違法になると「不当解雇」として従業員から訴えられるリスクがあります。
不当解雇になると、解雇が無効になってしまいます。そうなったら、いったん解雇した従業員を再度会社に迎え入れなければなりません。リストラで会社の再建をしようとした計画も失敗してしまう可能性が高まります。
裁判を起こされる
違法なリストラを行うと、従業員から労働審判や訴訟を起こされる可能性があります。
煩雑な裁判手続きに対応しなければならないので、労力や時間を割かれます。弁護士を雇う必要もあり、費用がかさんでしまうでしょう。
人事にかかる費用を削減するためのリストラにより、かえって支出が増加してしまう可能性があります。
評判が低下する
違法なリストラを行ったことが知れ渡ると、世間における評判が低下するでしょう。
とくに最近は、ネットを通じて簡単に情報が拡散されやすいので、注意しなければなりません。取引先からの信用を失ったり、企業が復活を遂げたときの新規採用が難しくなったりする可能性もあります。
以上のように、リストラが「違法」になると企業にはさまざまなリスクが発生します。リストラの要件や手順を知り、正しい方法で実施しましょう。
リストラの4要件
企業によるリストラ(整理解雇)が認められるには、基本的に以下の4つの要件を満たす必要があります。
整理解雇の必要性
まずは「整理解雇の必要性」の要件を満たさねばなりません。
整理解雇の必要性とは、「解雇しないと企業が生き残れないこと」です。
経営状況が悪化していても、解雇までは不要なケースもあるでしょう。収益低下の度合いがそこまで深刻ではない場合、配置転換や減給などによって対応できる場合などです。
整理解雇の必要がなければリストラは無効になるので、注意してください。
解雇回避努力
リストラが認められるには、企業が「解雇を避けるための努力」をしなければなりません。
たとえば以下のような対応をしましょう。
●不採算部門をとじる、売却する
●経費を削減する
●資産を売却する
●残業を減らす
●新規・中途採用を中止する
●配置転換、出向、転籍を実施する
最大限の努力をしても、なお解雇がやむを得ないといえる場合にリストラが認められます。
人員選定の合理性
有効にリストラを実施するには「人員選定」も重要です。
恣意的に対象者を選んだり、不平等な基準で選定したりしてはなりません。たとえば「気に入らない人をリストラする」「女性をリストラする」などの対応をすると、違法になるリスクが高まります。
●これまでの成績
●会社への貢献度
●勤続年数
●勤務形態
こういった要素をもとに客観的な基準を作ると、人員選定の合理性が認められやすくなるでしょう。
労働者への誠実な対応
リストラを有効にするには、労働者側へ誠実に対応しなければなりません。
労働組合や労働者の代表者へ説明を実施し、なるべく理解を求めましょう。
なお、「労働組合が納得しなければリストラできない」という意味ではありません。
最終的に納得してもらえなくても、誠実に対応した経緯があればリストラは有効になるケースがあります。
リストラを行うときには、基本的に上記の4つの要件を満たさねばなりません。ただしすべての要件を厳密な意味で満たしていなくても、状況によっては解雇が「有効」とされるケースもあります。
個別のケースにおいてリストラの要件を満たすか知りたい場合、弁護士に相談してみてください。
リストラでも解雇予告手当は必要
企業が従業員を解雇するときには、解雇予告に関する対応が必要です。
労働基準法により、30日前の解雇予告または不足日数分の解雇予告手当の支給をしなければならない、と規定されているためです。
解雇予告手当に関する規定は、リストラにも適用されます。
違反すると「労働基準法違反」となり、労基署から注意されたり罰則を適用されたりする可能性もあるので、注意してください。
リストラが不当解雇になっても「罰則」はない
リストラが不当解雇になった場合、「労働基準監督署から指導を受けたり罰則が適用されたりするのでは?」不安を感じる方もいるでしょう。
ただ、不当解雇(4要件を満たさないリストラ)は労働基準法違反ではありません。リストラの要件を満たさなくても「刑事罰」は適用されないので安心しましょう。
また労働基準監督署は、管轄内の企業が刑事的に違法行為をしていないかどうか監督する機関です。「不当解雇」かどうかには介入しないので、リストラが無効になっても労働基準監督署から調査されることは「基本的にない」と考えましょう。
ただし解雇予告手当を払わなかったり、残業代や基本給を払わなかったりすると、労働基準法違反となります。きちんと労働基準法を守っていない場合、リストラをきっかけにずさんな経営が明らかになって労働基準監督署から調査される可能性もあるので、注意してください。
正しいリストラの手順
以下では、一般的なリストラの手順をご紹介します。
解雇以外の方法による再建を目指す
会社の経営状況が悪化してきたら、いきなりリストラするのではなく解雇以外の方法によって再建を目指しましょう。
不採算部門の切り離し、M&A、資金調達、資産売却など、できることがいろいろあるはずです。従業員に対しても、解雇ではなく配置転換や出向、減給などによって対応できるケースも考えられます。
まずは「解雇を避ける手段」を実行してください。
希望退職者を募る
いよいよ人員削減を避けられない事態になってきたら、「希望退職者」を募りましょう。
いきなり解雇してはなりません。
希望退職者が充分な数になれば、リストラを避けられる可能性があります。
退職者を募る際には、退職金を割増しすると希望者が集まりやすくなるでしょう。
退職勧奨を行う
希望退職者を募ってもやはりリストラが必要な場合には、「退職勧奨」を行ってください。
この段階でも、いきなり解雇通知を送ってはなりません。
退職勧奨とは、自主的な退職を勧めることです。従業員へ個別に退職を促し、自主的に退職届を書いてもらえたら、後になって「不当解雇」といわれるリスクは低下します。
従業員が退職を渋る場合、退職金の上乗せを提案するのも有効な手段となるでしょう。
退職強要に注意
退職勧奨を行うとき「退職強要」にならないよう注意してください。
退職強要とは、従業員が拒否しているのに無理矢理退職させることです。以下のような場合、退職強要になる可能性が高まります。
●数人で取り囲んで退職届を書くまで解放しない
●相手が拒否しているのに、執拗に退職を促してストレスやプレッシャーを与える
●暴力や強い威勢を示して退職を強制する
●脅迫して退職させる
後に退職強要などといわれないように、退職勧奨の過程は録音やメールの保存などによって証拠化しておきましょう。
対象者選定の基準を作る
リストラを実施する際には、対象者の選定が重要です。恣意的に選ぶとリストラを無効とされるおそれが高まってしまいます。
勤続年数や勤務成績など合理的な基準を作成し、それに従ってリストラを進めましょう。
労働組合や労働者の代表と協議する
整理解雇を実施する前に、労働組合や労働者の代表者と協議すべきです。
何の説明もなく、いきなり解雇通知を送ったら不当解雇になってしまうおそれがあります。
一回で納得してもらえないケースも多いので、何度か協議の機会を設けましょう。後に訴えられた場合に備えて、協議の記録もきっちり残しておくようお勧めします。
誠実に協議や説明をすれば、労働組合が納得しなくても解雇通知を送ってかまいません。
「絶対に納得させなければならない」わけではないので、誤解しないようにしましょう。
解雇予告手当を支払って解雇通知を送る
人員選定と労働者側との協議をしっかり行ったら、最終的に解雇通知を送ります。
30日前に間に合わないケースでは、不足日数分の解雇予告手当を支払いましょう。
解雇予告手当は、基本的に解雇通知と同時に支給する必要があります。解雇の効果が発生しているにもかかわらず「後で払う」などというと従業員から訴えられる可能性があるので、注意してください。
まとめ
企業が安全にリストラを進めるには、法的にリストラが有効となる4要件を正しく理解する必要があります。間違った対応をすると大きなリスクが発生するので、そういったことのないよう注意しましょう。
経営状況が悪化してきても、いきなりリストラするのではなく、まずは別の方法で再建する方法を検討してみてください。自社のみでリストラを進めるのに不安がある場合には、弁護士に相談すると良いでしょう。
執筆者プロフィール
福谷陽子
法律ライター 元弁護士
弁護士としての経験は約10年。その経験をもとに、ライターへ転身後は法律や不動産関係の記事を積極的に執筆している。
弁護士時代は中小企業の顧問業、離婚や不倫など男女関係案件の取扱いが多く、浮気調査や探偵事務所の実情にも詳しい。
記事の作成だけではなく、編集やサイト設計、ディレクションやウェブコンテンツを利用したマーケティングのアドバイスなど、活動の幅を広げている。
運営サイト(元弁護士・法律ライター福谷陽子のblog)
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探偵社PIO編集部監修
本記事は探偵社PIOの編集部が企画・編集・監修を行いました。